[アドベンチャーボードゲーム]アリーナ・ザ・コンテストレビュー

アリーナ・ザ・コンテストってどんなゲーム?

Arena the Contestはミニチュアを使用したファンタージーアドベンチャーボードゲームです。3人または4人のヒーローキャラクターで構成されたチームを使用して、設定された盤面で相手のチームを倒すゲームです。

対戦ゲームってこと?

1対1または、各プレーヤーがそれぞれのヒーロを使用して4対4の対戦プレイが可能です。しかし、アリーナは対戦に加えてAI(決められたルールとカードに合わせて行動する敵キャラ)と戦うPvEモードもあります。

海外での人気は?

インディーズ開発のゲームなので店頭販売はしていないため、実際の人気度の指標としてはキックスターターとボードゲームギークスのレビューに頼ることになります。

今回紹介しているDragori(ドラゴリ)ゲームズの初のプロジェクトにあたるArena The Contest(アリーナ)だと、最初のプロジェクトながら2018年4月に米国ドルで73万ドル、4000人以上のバッカーで大成功。その後に2020年の2月に行われた協力・ソロプレイの大型エキスペンション「タナレスアドベンチャー」では今のところまでに300万ドル以上1万人以上のバッカーにサポートされて、ゲームフランチャイズとしては二つを合わせると日本円でトータル4億円以上を得たことになります。

アリーナの評価も米国ボードゲームのメインサイトBoard Game Geeksで627人の評価で8.9点という高評価を得ています。特に注目するべきは、最初のゲームのバッカーが四千人強のところ、タナレスアドベンチャーエキスペンションではそのうち3000人以上が再びバッカーになっているとのこと。

日本語対応は?

第2弾キックスターターキャンペーンでは日本語対応のようみ見えたのですが、直接開発者に問い合わせたところ、日本語版はアークライトゲームズに完全委託したとのこと。ただし、開発者によるとこれはオリジナルのアリーナザコンテストのみに対応でストーリーモード中心の巨大エキスペンション・「タナレスアドベンチャー」はおそらく日本語化されないだろうとのことでした。現在アークライトゲームズのオフィシャルサイトを検索しても、アリーナのゲームは見つけられませんでした。もしかしたら、発売中止になったのかもしれません。

英語版はどこで購入できるの?

2021年8月24日でアリーナザコンテスト改訂版とタナレスアドベンチャーのオンライン予約オーダーは終了するとのこと。ただし、ゲーム自体はスチームのテーブルトップシミュレーターでフリーでプレイ可能です。当方もスチームでプレイ中です。

英語があまり分からないんだけど?

PvEモードは、ストーリーと各クエスト独自のルールの解釈が少々難しいかもしれません。PvPに関しては(超)簡易版ダンジョン&ドラゴンズの戦闘ルールという感じなので一度基本ルールを覚えればルールブックを読まなくてもプレイ可能です。

ただカードの効果を解釈できなくてはいけないので、敷居としては他の英語版ゲームを読みながらプレイできるプレイヤーなら十分だと思いますがこれまで英語版ゲームをプレイしたことがないという方には難しいかもしれません。

アリーナの特徴

特徴①:練り込まれたファンタジーの世界

アリーナはドラゴンを中心としたオリジナルのファンタジーの世界を舞台にしています。「タナレス(Tanares)」と呼ばれる世界では、神により戦争が禁じられていて大きな問題は全て「アリーナ」で選別された戦士たちの戦いの結果で解決されるという設定になっています。

この説明だけだと一見するとゲームプレイに後付けのようですが、世界観は非常に深く練り込まれていて200ページ以上のArt&Lore(アートと伝承)本に加えて、今月末には世界観重視のダンジョン&ドラゴンズ第 5 版ルールを使用したタナレスを舞台にしたテーブルトップ・ロールプレイングゲーム版が次のキックスターターで登場します。

キャンペーンモード

アリーナ・ザ・コンテスト自体のストーリーモードは一周10〜15時間程度で決して長いものではありませんが、実際のプレイヤーたちからは予想外の高評価を得ました。各ステージはそれぞれユニークな仕掛けやルールがあり実際の戦闘と戦闘の間に謎解きもあります。また、ストーリーはマルチエンディン対応とのこと。当方はまだだ1周の後半なのでエンディングにはまだたどりついていません。

ちなみにタナレス・アドベンチャーエキスペンションだとキャンペーンは100〜200時間。クエスト総数100以上でそれぞれがユニークな仕様になっているそうです。

特徴②:オールインワン

もともとアリーナ=闘技場という意味で対戦ゲーム的なイメージが強かったアリーナですが、1対1から4対4の対戦はもちろん同じ基本システムでストーリーモードも1〜4人までの協力プレイが可能。時間がなくフルストーリーではなくただ協力プレイがしたい場合もそれぞれのクエストを単発でプレイも可能。一つのゲームながらPvPもPvEもそれぞれフルに楽しめる作りになっています。更に追加のドラゴンエキスペンションなどを購入するとドラゴン同士のPvPなども可能になります。

特徴③:戦略と運の絶妙なバランスの戦闘システム

アリーナの最大の特徴は、アリーナがゲームたる所以の「戦闘システム」です。

高い戦略性

戦略性が非常に高く、深く考えるプレイヤーなら多少大袈裟かもしれませんが1ターンずつチェスや将棋のように先を見越して最良の1手を模索可能なゲームです。

Easy to Learn Hard to master

システムはいい意味でダンジョン&ドラゴンズの戦闘システムの影響を大きく受けています。実際のところ開発者たちは、もともとダンジョン&ドラゴンズでPvPができないだろうか?と考えたところからアリーナの構想・開発が始まったそうです(Why an RPG?より)。複雑なダンジョン&ドラゴンズのルールをボードゲーマー用に最小限までに削ぎ落としたシステムと言えると思います。

ガイドも親切に6ページのクイックスタート版とフルルールブックが同梱されていて、初心者は複雑なルールを省いた簡易ルールで初めて2回目・3回目以降でフルルールの要素を加えていくことができます。ゲームを始める前に何時間もルールブックを読み込まなくても良いということですね。

ミニチュアとカードとボード

具体的にはミニチュアを盤面で移動させながら、カードを使って戦うゲームとなります。

プレイヤーは「ヒーロー」と呼ばれるキャラクター達を操作します。それぞれのヒーローは体力、防御力、基礎攻撃力と移動力があり、これらの数値に1つ受動能力と4枚のアッタクカードが設定さています。

戦闘はマス面を使ったバトルフィールドをミニチュアを仕様して移動させながら、各ヒーローは自分のターン時に1度ずつ好きな順に「移動」または「プライムアクション」を行います。

プライムアクション

プライムアクションは基本的には4枚のアタックカードを使うことになりますが、他にもヒーローの基礎攻撃力を使った攻撃や、ゲーム開始時から相手に隠した超大型魔法カード2枚(ヒーロイックアクション)を発動したり、攻撃の代わりに2度目の移動を行ったりもできます。

PvE(クエスト・ストーリーモード)では、敵が落とした魔法瓶カードの仕様や「レバーをひく」、「囚人を助ける」などの特殊アクションにも使用されます。

各ヒーローたった4枚のカードだけ?

一見すると攻撃カードのオプションが4つだけというは非常に少なく単純なゲームに思えてしまうかもしれませんが、各ヒーローの能力は独特で、移動による各キャラクターの配置との組み合わせで実際には各ターン複数の行動から何が最適なのか考えなくてはいけません。

例えば体力の減った味方を守るために受動能力と相手が自軍のヒーローから離れるときに発動する反撃攻撃などを使って体力の多いヒーローを相手の真横に配置したり、敵を囲みMob(群衆)効果で相手への攻撃命中率を上げるなどの戦略が配置から生まれます。

実際にプレイして見た感想は、カードゲームではお馴染みの各ターンの自分の行動は手札にあるカードをどう使うか、使わないかが大半を占めゲーム中盤から後半ではこの手札のカードがそのターンに引いたカードのみとなるパターンも少なくないのを考えると、アリーナでは各ターン「どこへ移動するか、どの敵を攻撃するか、どのアクションを使用するか」と複数の可能性を模索します。PvEでは自軍のヒーローは連続でターンを行い、ターンの順番も各ラウンド自由に決められるのでコンボが作りやすくその分更に戦略性が広がります。

4枚の先へ

各ヒーローの基本アッタクカードは固定の4枚だけですがこれに加えてヒーローには装備カードをつけたり、相手のターンでも使用可能な「カウンターカード」にあたるスクロールカードもありフルルールでは奥深さはグッと広がります。

アーティファクト=ヒーローのカスタマイズ

PvPモードでは基本の4枚のカードは変わりませんが、アーティファクトを装備することで各ヒーローのカスタマイズが可能です。ストーリーモードでは、さらに同クラスのキャラのアッタクカードを装備することも可能になり4枚のアッタクカードを増やすこともできます。

スクロール=カウンターカード

スクロールカードは使用宣言まで相手からは伏せておき、相手のターン中にも使用できる「カウンター・トラップ」カードです。

コントロールできる運

ゲームに運の要素は必要かという点ではゲームの種類とプレイヤーの好みで大きく分かれますが「運」の要素こそがカードゲームの金字塔であるマジックザギャザリング、アドベンチャーボードゲームとRPGの始祖であるダンジョン&ドラゴンズがそれぞれがプレイヤーを集め続ける所以です。残り1のヒットポイントから奇跡の起死回生はプレイヤーの思い出に残るゲームの瞬間になりますがこの瞬間を作るためにゲームデザイナーは運の要素を必要としているのです。

攻撃の成功はダンジョン&ドラゴンズと同様に20面サイコロで判断します。サイコロを振って出た数が対象のキャラのディフェンス値以上なら成功となります。

D&Dなどとは違いはサイコロは完全失敗=0ダメージではなく、失敗しても残余ダメージ(大体半分ぐらい)を与えることができます。ただし攻撃成功によって得られる特殊効果は発動されません。

運のコントロール

完全にサイコロ任せの運だよりだと戦略性が落ちてしまうのでアドベンチャーゲームはサイコロシステムを毛嫌いするプレイヤーが多くいるようですが、アリーナではこれもD&Dと同様に運を戦略でコントロールできるようになっています。例えば、ゲーム中のキャラに付加できる効果の中に加護(Blessing)と呪い(Curse)があり、サイコロを2回ふってそのうち自分に有利な一方を選ぶというD&Dでは有利と不利に当たる運をコントロールする仕組みなどがあります。

他にも仲間のキャラ同士の配置で相手の防御力を3下げることにより実質15%攻撃命中率を上げたり、移動をせずに周りに仲間も敵もいない状態での遠距離攻撃をする時カードなどとは関係なく加護の効果を得ることができたりと運の要素をプレイヤーが戦略的にコントロールできる要素が複数あります。

特徴④:プレイバリエーション

ゲームをプレイする度に毎回まるで違うゲームをしているかのような感覚を味わえるのが、ゲームデザインの段階で組み込まれたプレイバリエーションです。マジックザギャザリングなどのカードゲームはプレイバリアンスこそがプレイヤーが求める最大の楽しみの理由ではないでしょうか。

アリーナのヒーローはそれぞれ全く違うプレイスタイルを要しているため、マジックなどと同様に攻撃を中心にしたパーティーや相手の攻撃を阻止したり、相手をキャラをコントロールしたりを戦略の中心としたコントロール型スタイルのパーティーなどパーティーメンバーを変えるだけでプレイスタイルを変えることができます。

特徴⑤:将来性

最後の特徴はゲームの持つ将来性です。既にストーリーモードの超大型拡張パックである「タナレスアドベンチャー」のキックスターターキャンペーンは大成功で終えたものの、拡張パック自体がプレイヤーの手元に届くのは2022年3〜4月ごろで、タナレスを舞台としたボードゲームシリーズのピークはまだ先と言えるでしょう。

更に今月末(2021年8月)にはドラゴリゲームズ第3弾のキックスターターキャンペーン「Tanares RPG」も待ち受けていて、これはD&Dの第五版ルールを使用したテーブルトップRPGですがこのキャンペーン中にもボードゲームで使える拡張要素(新しいヒーロー4体、ドラゴン1体など)がありゲームのデザインと人気から見ても、今後もタナレスの世界は広がっていくことでしょう。

お勧め度

S全体のゲームバランスが絶妙で久々にゲームに大ハマりしました。対戦は相手がいるなら長く楽しめ、ストーリーモードも15時間程度とのことですがデジタル版でやっているせいか既に40時間ぐらいノロノロとやっています。今後はアリーナの15時間程度のキャンペーンに対して推定100〜200時間という大型キャンペーンモードエキスペンション版に、間もなくキックスターター開始のダンジョンマスター不要のダンジョン&ドラゴンズ第五版ルールを使用したテーブルトップRPGも待ち受けているのでこれからがこのゲームシリーズのピークになるはずです。お勧め度は最上位の「S」です。