【アドベンチャーボードゲーム】Stormsunder|カードゲーマーの為のテーブルトップRPG?

ストームサンダーって?

Stormsunderは、アドベンチャーブックスタイルのストーリー、詳細なミニチュア、カードゲーマー観点からみた無制限のゲームデザインの可能性を持つRPGテーブルトップゲームです。

2020年3月にわずか9日という短期キックスターターキャンペーンで4200人近くの支持者による$ 820kの支援調達に成功しました。 この記事の執筆時点では製品の最初の配送予定日は2021年5月とことを考慮しレイトプレッジはしばらくオープンしたまま続く予定です。

制作会社 :レイジースクワイア 
ジャンル: RPGテーブルトップボードゲーム 
プレイヤー :1-4協力プレイ 
価格 :セット1のみ($149),セット1&2($299),セット1,2および3($449) 
配送予定:2021年5月1/2022年3月 
ホームページhttps://stormsunder.com 
キックスターター(2020年3月5日終了):  Stormsunder Kickstarter 
レイトプレッジStormsunder Backerlit

ストーリー/世界設定

ストームサンダーの世界設定はユーモアのあるダークローファンタジーです。 このゲームで使用されるアメリカンコミックスタイルのアートは、たった1人のアーティストによって描かれているそうです。アドベンチャーブックスタイルでストーリーを進めていくこのゲームでは、プレイヤーの選択はストーリー展開に大きな影響をもち見せ掛けの選択ではないといういうことをいくつかの例で挙げています。 例えばプレイヤーの選択次第では途中でヒーローがあなたのパーティーを去るだけでなく敵キャラになることさえあります。 プレイヤーはクエスト提供者を殺すことさえできます。

またこのゲームではヒーローには多くのキャラクターパラメーターとクラス分類方がありストーリーの進行を決める際に使われる選択問題にも開発者が使用できるデザインスペースは複数あります。

例えば特定のヒーローがいる場合、そうでなければ種族がいるか?というプログラム風の選択肢。

全ヒーローメンバーの特定のパラメーターが一定の数値を超えているか?を確かめる場合など。

バトルゲームシステム〜カードゲーマー観点からみてみた〜

資源システム〜自動・犠牲型資源システム〜

マジックザギャザリングのようなプレイヤー対プレイヤー(PvP)カードゲームの場合、そのゲームのリソース(資源)システムとゲーム全体の複雑さはほとんどの場合相関しています。 ほとんどのカードゲームのリソースシステム設計は4種類に分類できます。 リソース管理のないゲームはNo リソースシステム(NRS)。NRSゲームではプレイヤーのアクションは多くの場合1ターンにプレイできるカードの枚数が限定されています。 自動リソースシステム(ARS)は所定の数のリソースが毎ターン自動的に生成されるシステムです。 犠牲リソースシステム(SRS)はカードを犠牲にする(墓地に送る)ことによってリソースを得るシステムです。最後にリソース専用のカードが存在するカードベースのリソースシステム(CRS)。 この分類法はアドベンチャーRPGテーブルトップゲームによく当てはまるようです。 たとえば、グルームヘイブンはリソースシステムを使用しない(NRS)ですがOathswornは自動リソースシステム(ARS)を使用しています。

ストームサンダーではアクションポイント(AP)と呼ばれる一般的なリソースは自動リソースシステムでヒーローの統計に基づいてターンごとに獲得されるリソースの量が決定されます。 下のヒーローアレクサンダーは毎ターン5 APを生成します。

ARSに加えてストームサンダーではSRSの要素もあります。 ヒーローの必殺技使用にはAPではなく「パワー」を必要とします。各ターンプレイヤーはカードを捨て、捨てたカード分のAPコストに等しい「パワー」を選んだ必殺技カードに置くことを選択できます。

Stormsunder Demo Rulebook p16

カードの種類

ゲーム内のカードの種類はゲーム全体におけるデザイン構造の可能性と比例しています。ストームサンダーには洗練されたPvPカードゲームでもお馴染みのカードタイプがあるだけでなく各々のカードタイプにはPvPカードゲームを超える詳細な構造があります。

ヒーロー

ストームサンダーのヒーローにはこのタイプのゲームで見られる標準の3つのパラメーター(攻撃力、体力、機動力)に加えて、6つの追加のパラメーターがあります(10)。 6つの追加パラメーターには強さ、知覚、敏捷性、精神、活力、およびカリスマ性が含まれます。 これらのパラメーターは特定のクラスによる装備品の完全制限しなくても各ヒーローが得意な武器を決めることができたり、アドベンチャーブック形式のストーリー中の選択肢時にに戦闘以外で使用されたりします。

カードゲームでもお馴染みの職業、クラス、派閥や種族など RPGでは欠かせない要素ですがストームサンダーでは各ヒーローには4つの全てが分類に採用されています。 ゲーム設計のレベルではストームサンダーのヒーローで不可能なゲーム構造はないでしょう。

必殺技

ヒーローには欠かせない必殺技はもちろんストームサンダーにもでも登場します。特定のヒーローに固定の必殺技が付加されているのではなくプレイヤーが各ヒーローに各戦闘に持ち込む必殺技をそれぞれユティリティーと究極のタイプを一枚ずつ選択することができます。 

アビリティーカード

プレイヤーは各ヒーローのアビリティーデッキを構築して、エンカウンターではデッキから毎ターン最大3枚まで手札が5枚以下なら引くことができます。対戦カードゲームでは当たり前のデッキからカードを引くというシステムが意外とアドベンチャーボードゲームでは少なかったりします。

コストがゼロのカードはヒーローのアクティベーションの外でプレイすることもできます。これは、敵の攻撃を防ぐため、または味方を助けるためです。

StormsunderデモルールブックP14

ストームサンダーでは他のヒーローまたは敵のターン中に妨害・割り込みで使用できるインスタント・インターセプトタイプのカードもサポートしています。

特性カード

ストームサンダーのアビリティーデッキにはストーリーを進めていくことによって進化していくヒーローの「特性・性格」をカード化してバトルに影響を与える興味深いゲーム構造ががあります。 最初これらは一般的にヒーロー/パーティーにマイナスの影響を与えるのですが自分の能力デッキには入れなくてはいけなくカードを引いた場合その瞬間に使用しなくてはいけません。

Example of Trait Card from Demo Rulebook p15

装備カード

ストームサンダーの装備カードにはいくつかの興味深いゲームメカニズムを要しています。

  • いろいろなヒーローパラメータに基づく装備条件と基本ダメージ数値
  • APを使用してエンカウンター中に武器を切り替えることができます。
  • アーマーvs.ディフェンス:どちらもダメージを軽減しますがアーマーは攻撃を受けるたびに減少していきますが防御値は変わりません。
  • セットボーナス:同じセットからの複数の装備品をつけていると特殊効果が付与されます。
Equipment Cards: Stormsunder Demo Rulebook p18

コンパニオンカード

コンパニオンという単語を初めて見たとき、すぐに「トークン生成カード」と思いましたがこのゲームの他の部分と同様にさらに細かく分かれています。コンパニオンは、サイズによって小、中、大に分類されます。 小さなコンパニオンは場に直接存在せずにカードとしてのみ扱われる存在。 ミディアムサイズはトークンとしてバトルフィールドに存在しますが通常は敵の標的となりません。 ラージコンパニオンはヒーローのような実体を持ち体力もあり敵の標的ともなりえます。 

消耗品

Stormsunder demo rulebook p20

使い捨てアイテムカーです。

敵対者

Sample Adversary Card from Stormsunder demo rulebook p32

敵対者カードとヒーローカードの相違点は 敵対者カードにはヒーローにある複数のパラメーターの代わりに物理防御(8)と魔法防御(9)、敵対者を倒した後に得られる戦利品(10)と経験値(11)の数が記されています。 さらに、ヒーロー達ほどの重要性はないとのことです敵対者にも分類できるようにアーキタイプ、階級、派閥、人種を持っています。 

戦利品システム

敵を倒したヒーローは敵対者カードに記載された数の分のカードを戦利品デッキから引けます。

Stormsunder Demo Rulebook p17

ここで興味深いのは戦利品によってはさらに別のデッキからカード引くことになる2層システムを採用していることです。例えば武器カードを引いた場合は武器デッキからカードを一枚引くことでどの武器を得るかが決まります。このシステムにより開発者はエンカウンターごとに細かい戦利品デッキの中身の調整が可能になります。

さらにエンカウンターの合間に休憩するか連続して次の戦闘に出るかで戦利品デッキをシャッフルするかしないかが決まりリスクを背負うことでレア度の高い戦利品を見つけるチャンスをあげたりできます。

戦闘システム

テーブルトップRPGではお馴染みのサイコロと基本ダメージの組み合わせを利用した戦闘システムを採用しています。ストームサンダーでは基本ダメージ値にサイコロで出した目の分を合わせたのが攻撃値になります。ここから対象の防御値とアーマー(防具値)の合計を引いた差が最終的なダメージになります。

バトルフィールド構造

フィールドを使用したゲームには独自の戦略とゲーム構造が生まれます。

  • 近接対遠隔攻撃
  • 地形要素を含む見通し線
  • インタラクティブな地形要素(レバーなど)
  • 側面攻撃

側面攻撃

ターゲットの「側面攻撃」にはヒーローはそのターゲットに隣接し、同じターゲットに隣接している味方の反対側にいる必要があります。 この時、味方のいずれかによる攻撃はターゲットに対して+2 BD(基本ダメージ)を与えます。 マップ上にトークンまたはミニチュアを持っているコンパニオンは、自分自身が攻撃できない場合でもターゲットの「側面攻撃」貢献できます。

Stormsunder Demo Rulebook p25

リンク & コーン 攻撃

複数の攻撃に対するパターン攻撃で「リンク」と「コーン」と呼ばれるパターンがありますが、これらの攻撃は敵陣営の位置を利用したゲーム構造ということになります。

リンク攻撃
コーン攻撃

地形

ストームサンダーには4種類の地形があります。穴、フルカバーとハーフカバー、そして相互作用可能な地形です。完全なカバーと半分のカバーを分けているところがシンプルさよりもゲームデザインの可能性と奥深さを重視していると開発者のゲーム設計方針がわかります。

Terrains: Stormsunder Demo Rulebook p21

ミニチュア

膨大な数と見る限りでのその品質から開発者がいかにミニチュアに重点を置いているかが一目瞭然です。 なんと、最初のセットだけで100体のミニチュアが! 3セットすべて購入すると348個のミニチュアがついてきます!

懸念要素

価格

各セット $ 150とさらに送料がかかります。 3セットすべてを2段階の配送で購入した場合、米国ドルで$500〜600。さらに完全コレクターならいくつかの追加アイテムも別に存在しているので日本円にすると7〜8万円。さすがにボードゲーム にこれだけ払うのはと思うかもしれませんが、具体的な内容を見てみると…

セット1だけで100体のミニチュアに300ページのキャンペーン。開発者は百時間遊べるとのこと。

セット2と3を加えるとこれが2倍、3倍になります。

グルームヘイブンだと米国ドルで定価$140にして、お世辞にもあまり品質が高くないミニチュアが20体弱。実際のゲームプレイに関してはBGG一位のゲームと発売前の前歴のない新規会社の作品とは比べられませんが、中身に入っている内容自体はこの手のゲームにしては良心的な価格設定と言えなくありません。

複雑すぎる?

対戦型カードゲーマー観点から見ると、個人的にはシンプルでカジュアルなハースストーンよりもルールは複雑でもその分プレイ内容の幅と奥深さがあるマジックを好むのですが、ストームサンダーは設計上は明らかに後者の方にあたります。

ただしゲーム構造の複雑性は両刃の剣で デザインスペースが増えても必ずしもそのゲームが面白くなるとは限りません。 実際、ゲームルールが複雑すぎるために失敗してしまうゲームもたくさんあります。ゲームのルールやメカニズムが複雑すぎるとプレイヤーはゲーム自体を楽しむのではなく、それらのルールが守られているかルールを理解するのにゲーム時間の大部分を費やしてしまいます。 さらにゲーム構造が複雑になるほど開発者がそのゲームのバランスを取るのも難しくなります。 一見するとストームサンダーのゲームデザインは直感的に見えますが細部までこだわり過ぎてしまったのではないかと懸念します。

例えば装備とベースダメージ(基本攻撃力)の構造です。 それぞれの武器には必要なヒーローパラメターが設定されていて、これらの条件を満たすと一番右に書かれているパラメーターがその武器を装備した時のヒーローの基本攻撃力を決めることになりますが、実際の数値はパラメーターの数値をもとに変換表を使用します。

上のルールブックの例をみてみましょう。

巨災のクロスボウ
  • 巨災のクロスボウを装備するには最低で力が8、知覚が10必要になります。
ヴァネッサ|レベル4
  • レベル4のヴァネッサは力8・知覚13なので両方条件を満たしているため巨災のクロスボウを装備できます。
  • 一番右の条件は知覚なので知覚13を基本攻撃力の変換に使います。
  • 知覚の13を上の変換表で見ると12の3と14の4の間になります。中間の場合は下の数字を使うので3となります。
  • よって最終的にレベル4のヴァネッサが巨災のクロスボウを使用すると基礎ダメージ3の武器となるわけです。

ゲームデザインとしては好きなヒーローに好きな武器を装備させることができて、同じ武器でもヒーローのパラメーターによってその攻撃力が変わるという自由度が高いシステムになってはいるのですが攻撃力を決めるまでがややこしい。

例えばよくある武器の種類やクラス別に装備できるものを制限したとしましょう。ヴァネッサの上の例だとクロスボウは装備できてもチャクラムはできないとしたり、レベル4のヴァネッサは無理でもレベル5からチャクラムも装備可能などにしてもほぼ同じことができると思います。理由としてはこのゲームではヒーローの各レベルは別々のカードに記載されいて各レベルにおけるそれぞれのヒーローのパラメターは決まっているからパラメーターで制限しているようでも実際レベルで制限しても同じになるからです。

現在のシステムももう一つの利点はヒーローにそれぞれ得意不得意な武器があるということをそれぞれのパラメーターで変化する基本ダメージ値ですが、これも単純にヴァネッサはクロスボウを装備すれば攻撃力に+2するなどのボーナスで対処できると思われます。

ゲーム構造としては柔軟性はあるのですが実際のところあまり使われない長所よりも複雑な構造として短所が目立つと思われます。

無名な開発会社

実はストームサンダーはLazy Squire Gamesにとって最初のプロジェクトというわけではなくて2018年に既にキックスターター で成功したボードゲームWild Assentがあります。Wilde Assentでは日本円で3000万円以上の支援金を二千人以上のバッカーから得ることに成功していますが、ゲームの配送予定が2019年12月だったのに今現在ゲームの配送の目処が立っていない状態です。

ただしキックスターターで実際の納期にゲームが遅れるのは珍しくなくキックスターターの経験も豊富でボードゲーム業界では大手のCMONも昨年度既に販売されていたゲームのキックスターターボーナスを再度手に入れられる機会ということでアートブックとBGMを加えただけで再び行ったキックスターターのTime MachineもWild Assentと同様に昨年の12月に配送予定がいまだにバッカーの手元に届いてないという事実もあります。

ただいくら納期から遅れたとしても、最終的の新興会社がストームサンダーのような大型規模のボードゲームをプレイヤーが満足いくレベルで果たして作れるのだろうか? という疑問は残ります。例えばミニチュアだけをみても1セット100体以上となると品質に疑問が出てくる気もします。Wild Assentの量産ミニチュアとキックスターターで紹介していたプロトタイプを見比べるとほぼそのままの品質に見えます。

Kickstarter Campaign Prototype Picture

ゲームのバランスについてはどうでしょうか?

先日公開されたばかりのキックスターターアップデートでは今だにプレイテストを行なっているとのこと。これは最後の最後までゲームを完璧な状態にという気持ちから来ているのかそれともLSGにはバランスを調整するキャパシティーがないのかWild Assentが実際のプレイヤー達の手元に届くまではわかりませんね。

中でも最も多く聞かれるLSGに対する批判的な声は納期をだいぶ過ぎたWild Assentが今だにプレイヤー達の手元に届いていないのに、ストームサンダーの要は大型のプロジェクトでキックスターター支援を求めたということにあります。要するに、他のゲームの開発の前にWild Assentを仕上げろということなのですが、LSGは小規模でも複数が働いていると考えるとデザインチーム、テストチームなどに各開発段階で別れていれば最後の仕上げに近づいているWild Assentにはデザインチームの出番は既にないと思われるので、新たなゲーム開発が開始されているのは会社経営としては当たり前に思われます。

個人的に最も懸念しているのは、なぜあと数ヶ月LSGはストームサンダーのキックスターターを待てなかったのかということにあります。もうまもなくプレイヤーの手元に届くであろうWild Assentに絶対の自信があれば、これ以上にないストームサンダーへの宣伝になります。また同じように考えれば、ストームサンダーも3部一気にキックスターターを行うのではなく最初はコア・第1部だけで2部と3部のエキスペンションは1部が手元に届いた後にすれば、億も簡単に超えるキックスターターになりえたでしょう。あえてそうしなかった理由は、実際のゲームプレイに対する自信がないのか、はたまた数ヶ月ももたないぐらい資金がそこを尽きているのか。

まとめ

ゲーム構造から見るとストームサンダーは非常に魅力的でその可能性は計り知れないものがあります。今後歴史的なゲームになる可能性も十分にあります。ただ新興会社が果たしてこれだけのスケールのゲームを高品質で実際につくれるか?という大きな懸念があります。これはLSGという会社のここまでの行動がイマイチという点があるので。ただし、ストームサンダーの予約購入はこの先しばらく可能なので何よりもLSGの最初の作品であるWild Assentの一般プレイヤーの評判を待つのが現状最良の選択だと思います。