【FAB TCG】ファーストインプレッション 第3回 「TCGにおける一貫性の完成形」

カードゲームにおけるバリアンス

Variance is “how differently a gameplay element plays out from one play experience to the next.” We can think of variance as a scale. If that element has a high variance, it has the potential to play differently each time it’s played. If that element has a low variance, it will play similarly each time it’s played.

Making Magic Variance Part 1 by Mark Rosewater

TCGの最大の特徴と言っても過言ではないのが、ゲームバリアンス(分散)です。マジックザギャザリングのデザイナーのマーク・ローズウォーターは、「ゲームのバリアンス」を同じゲームでもプレイする度に変わるプレイヤーの体験と定義しました。

バリアンスが低ければプレイヤーのスキルを重視したゲームに、高けば運を重視した瞬間的な盛り上がりを重視したゲームになります。チェスや将棋は指し手のプレイスタイルの差を除けば、ゲーム構造自体にはバリアンスが全くありません。つまり、同じようにプレイすれば必ず同じ結果になり、初心者が上級者に勝つという漫画のようなことはありえません。逆に、スゴロクなどのように完全にサイコロを使った運任せのゲームはその都度結果が違うので最大のバリアンスを持ったゲームといえます。スゴロクなら幼稚園児が大人に勝つことも可能ですね。

TCGはシャッフルされたデッキから手札を引くというゲームなので、運の要素がゲームの根本に備わっています。そして、そこから生まれたバリアンスこそTCGの最大特徴なのです。ただ、その度合いはTCGによって大きく異なります。プレイヤーのスキルを重視したい場合は、バリアンスを最低限に押さえる必要があります。

例えば、TCGの王道であるマジックザギャザリングはバリアンスを抑えるために幾つかのゲーム構造とルールを設定しています。

  • マリガン(初手引き直し)
  • ベスト・オブ・スリー(1試合3セット)
  • 4枚制限(デッキに4枚まで同じカードを含めることができる)

それでもなお、「土地事故」と呼ばれるプレイヤーが運のせいで何もプレイできないという不運な、ゲームになっていない試合がうまれてしまいます。

マジック以降登場する戦略・対戦型TCGはほぼ必ず、どうやって「土地事故」のような状況を作らないようにするか?どうやってバリアンスが根本的に備わったTCGで一貫性を持たせるのか?ゲームの基礎構造レベルで開発者はそれぞれの答えを出さなくてはいけない問題だと思います。フレッシュアンドブラッドTCGがたどり着いた答えは一つの完成形ではないでしょうか?

装備

アクション 1ターンに1度 – [2 Resource]: 攻撃 効果 1ターンに1度 – [Power] 6以上のカード1枚を捨てるとターン終了まで [Power] +1。

各ヒーローは武器の装備が可能で、武器はヒーローの能力と同様にゲーム開始から終了まで何度でも使用可能です。しかも、単純にヒーローが他に何もできなかったらとりあえず武器で攻撃と行ったデザインではなく武器自体が他のカードやヒーローの能力のように練りこまた設計になっています。

さらに武器以外にも装備とは頭、腕、体と足の最大4枚可能まで可能で、武器と同様に装備カードもゲーム開始時から場に出た状態でゲームを始めることができます。

自分のターンの始めにこのカードのエナジーカウンターが3未満なら、1つ足してもよい。

インスタント – このカードからエナジーカウンターを3つとる:[1 Resource]を得る。

ブレード・ブレイク (防御にこのカードを使ったら、コンバットチェーン終了時に破壊する。)

装備品はおまけではなくゲームの戦略や勝敗に大きな影響があります。実際レア度の高い装備品は、トレーディングマーケットで最高額でトレードされているカード達です。

武器と違うのは、装備品は防御に使用したり能力を発動したりした場合破壊されることがあることです。つまり装備品を使うタイミングが戦略に大きく関わってきます。

そして装備品は固定ではなく、他のゲームでいうサイドボード的扱いでゲーム開始時に相手のプレイヤーのヒーローを見て手札と同様に装備品を選ぶことができます。

ピッチシステム

マジックザギャザリングにおける「土地事故」とは手札にあるカードがリソース専用の土地カードだけか、または逆に土地カードが全く手元にないどちらかの状態が連続して続き、結果的に何もカードをプレイすることがでずにゲームが進行していくと不運な状況です。この状況だとプレイヤーも相手も実際にゲームをしている気にすらなりません。

もちろんこれはデザイナーが意図したことではなく、設計の段階で生まれた副作用です。そこでまずはマジックの土地を使ったシステムの利点を見てみましょう。

  1. デッキ構築・最適化のチャレンジ
  2. 奇跡の瞬間
  3. リソース専用のゲーム構造

筆者は上の3点がマジックの土地を使ったリソースシステムの利点だと考えています。まず一つ目は、デッキ構築時にデッキに含むカードを選ぶだけではなく、その時それらをカードを実際にプレイするためにどの種類の土地カードを何枚入れたら確率的に自分の意図したプレイが可能か?ということを計算する楽しみがあります。

二つ目は、マーク・ローズウォーター自身が言った「奇跡の瞬間」を作るためです。全く何もできない状態が連続して続いた時は最悪ですが、これがもし連続して手札にプレイできるカードがない状態が続いて、最後の1点のライプポイントで負けると行った瞬間に必要な一枚が手札にきて逆転したらどうでしょう?序盤は相手が圧倒的に優勢だったのが途中で相手が一時的に土地事故状態になり最後の最後に逆転できたら?これらの試合は、プレイヤーにとって奇跡の瞬間として記憶に残るというのです。確かに、実際のプレイで何度も土地カードが手札に後1枚!と願いながらカードを引いている瞬間はそれ自体がアドレナリン分泌を促すゲーム的瞬間につながっています。

3つ目はマジックはカードを使ったリソースシステムを使用しているので、土地カードがクリーチャーに変身したり、複数の色のマナを生み出す土地だったりと他のカードと同様に土地カード自体がゲーム構造のデザイン対象になります。

ただ、これらの利点があっても「土地事故」はプレイヤーの多くの記憶に負の印象として残ります。そこで、これまで色々な新規TCGは「土地事故」なくすためのリソースシステムの設計に挑戦してきました。中には、カードを使ったリソースシステムを完全に廃止したり、通常の手札カードを捨てることでリソースにしたりと色々存在します。ただ、筆者の経験ではそのほとんどが土地事故は廃止できてもマジックのリソースシステムが持つ3つ利点も同時に失われていました。

フレッシュアンドブラッドのリソースシステムの基本は一見すると、これまでにもいくつもあった手札カードを捨ててリソースを作るシステムです。

フレッシュアンドブラッドの各カードは左上隅に1から3のどれかのピッチ値が記載されています。例えば左のブルータルアサルト(青)だと3点です。このカードを手札からピッチゾーンに送ることで3点のリソースをそのターン得ることができます。

この時点で重要なのは2点です。一つ目は、1から3という全てのカードが同じピッチ数ではないということ。そしてフレッシュアンドブラッドでは毎ターン(基本)4枚手札にあることを考えると、各ターン0から12のリソースを生み出す可能性が存在しているということです。

ピッチ数が高いカードはピッチ数が低いカードよりそのカードの能力自体は弱く作られています。例えば、ブルータルアサルト(赤)はピッチ数は1ですが攻撃として使った場合は青と比べて2点上の6です。

さらに筆者が感心したのは、このピッチシステムの奥深さです。

1ターンに1度アクション – [1 Resource]: 攻撃

もしあなたのピッチゾーンにコスト0のカードがあるなら、調和された小太刀は「ゴーアゲイン」を得る。

ピッチするカードはそれ自体が基本的にプレイ可能なカードなので、カード使用に必要なコスト、攻撃力や防御力も記載されています。ピッチシステムではこれらの数値をゲーム構造として使用することも可能になっています。例えば調和された小太刀だとピッチゾーンにコスト0のカードを入れておくことで再度アクションが可能な「ゴーアゲイン」を得ることができます。

ゴーアゲイン

ヒーロー達は効果による手札補強、カード公開および山札サーチができない。

氷の経路-あなたの終了フェーズの開始時に、索漠たる広がりの経路にフローカウンターを1つ加える。もしフローカウンター数のアイスカードをピッチゾーンからデッキの一番下に戻せなければ、これを破壊する。

他にも数は多くありませんが、カードのタイプや色(赤・黄・青)と連動したゲーム構造もあります。

というわけで、筆者が勝手に決めたマジックザギャザリングのリソースシステムの3大利点をもう一度フレッシュアンドブラッドTCG視点で見てみましょう。

デッキ構築・最適化のチャレンジ

各カード1〜3点のピッチ値はデッキのプレイカードとリソースカード比率最適化の探求を求めるプレイヤーにはマジック以上の可能性を与えてくれます。プレイヤーはデッキを構築する時に勝利の方程式を頭で描いています。デッキによっては、各ターン1枚の強力な攻撃を狙うデッキ、フレッシュアンドブラッドではTall(高さ)があるデッキ。この場合は、数枚のカードをピッチしてハイコストのカードを一枚使用することになるので、必要にピッチ数3点の青カードが多めになります。対して、フリーコストのカードも一つ一つの攻撃力は低いものの数で押し切るWide(幅)があるデッキもあります。この場合はリソースをあまり気にしないので赤のピッチ数1点のカードが多く含まれることに。ゲームが比較的新しいことと、プレイ方法が大きく異なることもありマジックのようにデッキの40%を土地で微調整のような方程式はまだ確立されていません。よって、この要素に興味があるプレイヤーは十分にやりがいがあります。

ミラクルモーメント(奇跡の瞬間)

フレッシュアンドブラッドで1枚のリソースが手札にくるか来ないかでの感動はありません。なぜなら、リソースは必ず手札にくるからです。ただ手札に揃ったカードが理想的なターンを行えるかどうかが「奇跡の瞬間」を産んでくれます。

実際に数ゲームだけプレイしたファースインプレッションの段階ですが、各ゲームほぼ毎ターンと言っていいほど「あと1枚」あれば理想的なターンがという瞬間があります。そして、この瞬間を生み出すのはプレイヤー自身で手札にある4枚から最良の一手を導き出し、さらには先のターンに真の最良の一手を作り出すために手札を温存したりします。

こうして、デッキ構築の時点で自分が狙っていた一撃が相手に決まった時は、運よく狙っていたカードが手元にきた時の喜びを遥かに超えるものになります。

リソースカード

伝説 (デッキに1枚のみ) 対戦相手よりも [Life] が少ないときにこのカードを手放したら [Life] +1。

現在数は限られていますが、セット1の段階からフレッシュアンドブラッドにはリソースのみのカードも存在しています。つまり基礎ゲームデザイン上では今後リソースに注目したセットやクラスが発売される可能性が大ということです。

サイクル

デッキに入れらる同じカードの枚数制限は、戦略のキーとなるカードを試合中なるべく高い確率で引けるようにするTCGにおける「一貫性」を上げるために設置されたゲームルールです。マジックでは60枚のデッキに同じカードを最大4枚まで入れらるルールになっています。

これに対して、フレッシュアンドブラッドのコンストラクトフォーマットのデッキのサイズはマジックと同じ60枚なのに、同じカードのコピーは最大3枚までと初見ではマジックより一貫性が低くなっているように思われます。

しかし、フレッシュアンドブラッドの多くのカードはサイクルになっていて同じカードがピッチ数値1、2、3のバージョンで存在しています。

サイクルカードは色で表されていて、カード名は全く同じでもピッチ数値の差に対してカードの効果や攻撃力などの数値が調整されているだけとなっています。

例えば、フレッシュアンドブラッドのバニラ(特殊な能力を持たない)カードであるブルータルアサルトだと、ピッチ1のレッドカードは6点の攻撃力を持っていますが、ピッチ3のブルーカードは4点の攻撃力になっています。

一つ選択;

  • 対象の剣またはダガー武器攻撃は攻撃力+3を得る。
  • 対象のコスト1以下のアッタクアクションカードは攻撃力+3を得る。もし、この攻撃が命中したら、この攻撃はゴーアゲインを得る。

効果重視のカードのサイクルも同じように効果中の数値が調整されていますが、カードの効果自体は同じになっています。

そしてサイクルカードは個々3枚限定なので、実質9枚まで同名・同効果のカードをデッキに含むことが可能になっているのです。

デッキリサイクル

効果 1ターンに1回 – 武器攻撃がヒットしたらターンの間に同じ武器でもう1回攻撃できる

フレッシュアンドブラッドで、ピッチされたカードはターン終了後デッキの一番下に好きな順番で戻すというルールがあります。これに自分のターン終了時にヒーローのインテレクト数値まで手札を補強を合わせると、必要なら毎ターン4枚新しいカード引つづけることが簡単に行えるようになります。

ドローエンジンを構築してなないマジックのデッキ比べれば実質4倍の速さでデッキ全てのカードを手札に引くことができるということなります。フレッシュアンドブラッドでは、普通にプレイしていればデッキ中全てのカードを一周することが普通にありえるゲームで全てのカードが手札に一度はくる、そしてそれをある程度自分の技量で好きな順番でデッキ戻せるとなると「究極の一貫性」ではないでしょうか。

まとめ:ベストオブワン証明

ゲームの基礎構造がいかに一貫性を重視したデザインになっているか伝わったでしょうか?最終的な証明と言えるのはフレッシュアンドブラッドの公式ルールです。マジックなどでは、マリガンやマルチカラー対応の土地などいろいろな対策を加えてはいるものの、現状今だに避けようのない「土地事故」の可能性と対戦相手デッキとの相性などから起こる、「運」によるゲーム勝敗要素が存在します。よって公式戦ではこの運の要素を最小限に抑えるためにベストオブスリーと1試合3セットのシステムを使用しています。

これに対して「一貫性」根本から考えてデザインされたであろうフレッシュアンドブラッドでは、公式大会ルールも一発勝負のベストオブワンを採用しています。これこそ、ゲームデザインの「一貫性」の高さを証明しているのではないでしょうか?