スタン落ちの利点と欠点
プレイヤーの総合人口は新参・古参を合わせた現役プレイヤーから、途中でゲームを辞めていった人数を引いた数ですが、トレーディングカードゲーム(TCG)の存続には、このプレイヤー人口が一定の数以上必要になります。よってTCG開発者は常にどのように新規プレイヤーを増やすか?どのように古参を含めた現役プレイヤーを維持するのか?同じようで、実は全く違う二つの問題を同時に解き続けなくてはいけません。筆者はこの二つの問題の答えの鍵は新参と古参の共通因子となっている「費用」、そして一見すると2つのグループ間で矛盾している「カードプール1」にあると考えます。
スタン落ちの利点
マジックザギャザリングを含めた不動のTCGビック3(遊戯王とポケモンTCG)はどれもスタン落ち2をこの解答としています。例えばマジックだとスタンダード・フォーマットは最も標準的でここ1、2年のセットのみを使用できる人気のフォーマットです。カードプールを最新の数セットに限定することは新規プレイヤーにとっての利点だけではなく、古参プレイヤーにとってもゲーム環境を新しく保てるというメリットがあります。しかしそれぞれのセットのカードは1年半から2年で使用不可能になっていくのでスタンダード・フォーマットのみだと古参プレイヤーは不要なカードがただ増えていくだけになります。そこでこれらのカード群と過去のカードも使ってプレイしたい古参プレイヤー達の為に受け皿としてローテーションなしの構築環境(レガシー、モダンとパイオニア)が用意されました。
1)ゲームに使用可能なカード群
2)公式なフォーマットで定期的に古いカードが使えなくなるルール改定の事
スタン落ちの欠点
しかし、ここで問題となるのが受け皿のフォーマットのカードプールが時間と共にひたすら増え続け、スタンダード・フォーマットで構築した最強デッキをそのまま使用しても全く通用しない環境になっているという現状です。
結局のところ、受け皿フォーマットは廃版となったセットから鉄板カードを集めた環境になっていて、それぞれ過去のカードが廃版となっているため本当に昔からプレイしていて既に多くのカードを所持していなければ、トレーディングマーケットで高額の投資が必要となります。例えばマジックの競技フォーマットで最も人気のモダン・フォーマットだと上位デッキの多くは$1000越えのデッキです。またひたすら増え続けるカードプールは本当の意味で古参でない限り、その数が膨大すぎて可能性以前に尻込みしてしまうのではないでしょうか?
実際、マジックでは受け皿を数段階に分けて追加し続けています。全ての公式セットの使用が可能なレガシー、2003年に発売されたセット以降のモダン、2012年に発売されたセット以降のパイオニア。ここまでみると約10年単位で区切っているようですね。
イントロとしては長々語ってしまいましたが、スタン落ちは長い目で見た時新参にも古参にも理想のシステムとは言い難いです。そこでフレッシュアンドブラッドTCGは、ゲームの基礎システムの構築段階からスタン落ちフォーマットを採用せずに永久にローテイションしないカードプールを実現する競技レベルでプレイが可能なTCGとして作られました。今回は、FABは一体どうやって「スタン落ち」以外の方法で永久にローテイションなしカードプールを競技TCG環境で可能したのか?に注目していきます。
新参プレイヤー
コスト面から見て新参プレイヤーにとって重要なのは、まずはどれくらいの資金が必要なのか?上限はいくらぐらいなのか?だと思います。前者はとりあえずゲームを様子見で初めてみようかという気になる程度の額で、ゲームの面白さと可能性が伝わらなくてはいけません。後者は、もしゲームを気に入ったとしたら、どこまでコストがかかるのか?もし、上限が高すて最終的に絶対に払えない・払いたくない金額だったら最初から手をつけないという思考になってしまうからです。
無料のウエルカムデッキ
LSGは何と海外のゲームショップで「無料」でウエルカムデッキを配布しています。デッキの内容としては高額のカードなどはもちろん入っていませんが、ゲームルールを実際のゲームプレイとは程遠いぐらい簡易化したり、チュートリアルのみでしか使えない限定のカードなどは使わずに、実際のゲームで使われるカードリストからデッキが構築されています。
筆者は実際にウエルカムデッキを使用してゲームを始めましたが、最初数ターンはルールを学びながらもたついていましたが、1戦目が終わる頃にはゲームの基礎はしっかり身についていました。9歳のTCGプレイ未経験の娘もあっという間にルールを把握してウエルカムデッキを使えるようになりました。
近所にFABを扱っている店舗がない場合は、公式サイトでダウンロードと印刷ができます。
無料のオンラインテスト環境
シングルカードの購入前にデッキ考えたデッキを試してみたいという場合は、非公式に全カードを使用してのオンラインプレイが可能なサイトがいくつかあります。これは公式なオンライン対戦環境が存在してないために可能な利点ではないでしょうか?
- Felt Table(AIと対戦・一人用)
- オンライン対戦 (対戦相手をDiscordなどで探す必要があります)
- テーブルトップシミュレーター(オンライン対戦) STEAMのテーブルトップシミュレーターが必要です。FAB自体は無料ですが、テーブルトップシミュレーターのソフトを持っている必要があります。
リミテッドフォーマット完全サポート
FABでは、拡張専用セット1以外はリミテッド環境を意識してバランス調整されているので、カードコレクションがない新規プレイヤーは、シールドやブースタードラフトからのプレイをお勧めします。リミテッドフォーマットはブースターパックから開封したカードのみ使用して行われるので、投資額の差を気にせずにプレイできます。リミテッドでカードコレクションを増やした後に構築環境に挑戦するのはTCGにおいては一つの理想的なゲームの遊び方だと思います。
ブースターパックの定価は$3.99ですが、24個入りのボックスやボックス4個入りのケースを大人買いすれば人パックあたり$3から$3.50で購入可能です。シールドに使うなら6パック必要なので$24。筆者が、実際に近所のゲームショップでプリリリース・シールドイベントに参加した時は$30で試合に使う6個のパックと参加賞のプロモカード2枚。試合成績に応じて1勝1パック(4戦)の報酬でした。
1) 2022年6月の時点で、拡張専用セットはセット3のCrucible of Warとセット6のEverfestの二つ。
カジュアルプレイヤーに優しい「ブリッツ」フォーマット
構築フォーマットから直接始めたい新参プレイヤーには公式ブリッツデッキが他のゲームのスターターデッキに相当します。ブリッツデッキの定価は、なんと破格の$9.99(日本円で千円程度)。
セット4以降、拡張専用セット以外は新セット発売と同時のそれぞれのセットで登場する各ヒーローのブリッツデッキが発売されています。
ブリッツ・フォーマットは”ミニ”構築フォーマットで、クラシック構築に比べて以下の点でルールが異なります。
- ヤングヒーロー(ライフが通常のヒーローの半分)
- デッキサイズは20枚少ない、40枚。
- 同じカードは3枚ではなく、2枚まで。
- サイドボードなし
ここで重要なのはクラシック構築と全く同様のカードプールを使用。ヒーローの能力もクラシック構築と全く同じで、妥協することなくコストに優しい人気のフォーマットになっています。
筆者は最近ゲームを始めたばかりで、まだ購入したブリッツデッキを開封すらしていないのですが、ネットユーザーの意見を見てみるとそれぞれのヒーローやクラスの特徴を捉えたプレイスタイルが体験できる仕様になっているそうです。もし独自のデッキを作りたい場合は、ブリッツデッキを元にカードを入れ替えていくと良いとのこと。
ヒーローシステム=楽々途中参加
FAB以前の過去のTCG経験からヒーローやクラス縛りでデッキに使用できるカードを限定したTCG=戦略性が限られるという偏見を持っていました。FABの戦略性の奥深さは筆者が過去にプレイしてきたどのTCGより奥が深く同じヒーローでも、カードと戦略を変えることでアグロ、コンボ、そしてコントロールなどの全く違ったアーキタイプのデッキを作ることが可能です。
そして、このクラスシステムの最大の短所を取り除いた時、クラス縛りを使ったTCGのメリットが明白なりました。拡張セット(これまで年に1度の頻度)を除くとそれぞれのセットは3〜4のヒーロー/クラスに限定されいて、一般的なローテイションがないFABでは好きなヒーロー・クラスが登場したセットに注目すればいいという驚愕の事実が。
具体的な例だと、セット1から登場のクラスの一つ忍者は、最新のセット7で新属性ドラコニック・忍者として再登場ですがこれらのカードを含めても忍者クラスのカードは127枚。無属性のカードはトークンを含めて333枚。FABのカードの多くはサイクルになっているのを考えると両方合わせても7セット発売している今でも他のゲームの1セット分程度だけを考えればいいという計算に。これは本当に新参プレイヤーにありがたいのではないでしょうか?
もちろん対戦相手は別のヒーローを使ってくるので、対応策のために他のカードや他のヒーローのプレイスタイルを見るのは重要です。
再版方針
マジックのローテーションなしのフォーマットで新参プレイヤーにとって最も大きな障壁となっているのが、カード再版に関する開発者の方針とです。
マジックでは過去の特定のカードの価値を下げないために「絶対再版をしないカード」というリストを作っています。ただ、リスト以外のカードでもローテイションなしのフォーマットなどでは鉄板の強力カードが多々あるにも関わらずその多くが再版されていないため、値段が高価になりすぎていてこれらのフォーマットへの新参プレイヤーの参加は実質不可能に近い状態となっています。
LSGは特殊な公式大会使用不可のプロモカード以外は、全て再版の可能性ありとしてます。ただ、手に入れたカードの価値を下げない為にバランスは考えるとのこと。
先月発売された再版セット第1弾「ヒストリーパック1」では、FABの1年目にあたる最初の3セットで登場した公式大会で鉄板のレジェンダリーカードは全て含まれています。
しかも、パックの定価は通常のセットのブースターパックと同額。
今後も同様に再版パックを定期的に発売して行けば、新参プレイヤーもトレーディングマーケットで問題なく必要なカードを揃えられますね。
古参プレイヤー
古参プレイヤーの定義は曖昧なのですが、ここでは単純に数セット以上プレイを続けていて自分のヒーローにとて必要なカードは一通り揃っているプレイヤーと定義します。他のTCGではメインのローテーション式の構築環境だと新セットの発売と同時にこれまで使っていたカードが使えなくなる、スタン落ち(スタンダード落ち)再びカードを揃えなくてはいけなくなります。
FABは最初からローテイションしないゲームとして根本からデザインされているのです。つまり、持っているカードのプレイ価値が無くならないというTCG経験者には結構驚きの事実が!
リビングレジェンドシステム
FABではカードプールをローテイションさせずにゲームのバランスを維持するために、「リビングレジェンド」というシステムというを使用しています。
このシステムでは基本的に公式の大会である一定の結果を残した「ヒーロー」のみを「リビングレジェンド」=ローテイションするというもの。FABにおけるヒーローの役割は大きく、その能力に加えてデッキに含めるカードの種類もヒーローのクラスやタレントで決められています。つまり、ヒーローが変わるということはデッキの構築に使えるカードプール自体が変わるということ。ヒーローをローテイションさせることでゲーム全体のカードプール自体は維持しながら、メタを新鮮に保ち続けることができます。
例えば、初のレジェンドに達したヒーローの一人「ブラボー、ショーのスター」はクラッシク構築では使用不可となりましたが、これによる影響はゲーム中の他のカードにありませんでした。
このバージョンのブラボーはアース、アイス、そしてライトニングと3種類のエレメンタルカード群を使えたのですが、このブラボーが抜けた現在、2種類のエレメンタルカード群は同時に使えるヒーローがいても、3種類使えるヒーローはいなくなりました。
これによって3エレメントのシナジーは無くなったということですね。
ブラボーを失ったプレイヤーは別のブラボーを使用することもできます。この場合はガーディアンクラスのみなのでエレメンタルカードは使用できまくなりますがブラボーのみが使えるカードは使用可能です。
ブラボーカードよりもエレメンタルガーディアンのコンビネーションが大事ならオルードヒムに移行するオプションもあります。
オールドヒムだとアースとアイスのカードは使えますがライトニングカードは使えません。
エレメンタルカードが揃っていてそちらが重要なら他のエレメンタルヒーローに移行してそのヒーローのクラスカードを揃えるというのも一つのオプションですね。
もちろんゲーム環境のバランスに深刻な問題があるカードなどは、他のゲームと同様に禁止・制限リストに入ります。ただ、集めたカードが基本いつまでも使用可能というのはコレクションが自然と増えていく古参プレイヤーにとってはまさに理想ではないでしょうか?
ヒーローシステム=カード群への愛着
古参プレイヤーにとってのヒーローシステムの利点は、新セットの発売時に自分のヒーローやクラスに関連あるカードだけ集中できるので、セットによっては自分のヒーローに関連するカードがたくさん含まれていなければ新しいカードをそのセットから手に入れることは必要ないですね。ただ、数セットぶりに自分のヒーローに関連のあるカードがたくさん出た時は盛り上がるのではないでしょうか?
少なかったりでその都度、新セットへの期待が高まります。
そしてもし、特定のセットで自分のヒーローに関するカードが追加されなかったとしてもメタ環境に新しいデッキが登場することでこれまで使用しなかったカードなどを見直して自分のデッキを再編成することが必要になります。このプロセスを繰り返していくことで、他のゲームにはないほど個々のカードとヒーローやクラスについて知ることができ、愛着が湧くのではないでしょうか?
新セット
実際に古参プレイヤーにとって新セットごとにどれぐらいかかるかは各セットによって違います。初期段階の投資を全て終えて新たなセットだけ見ていく古参プレイヤーだと、自分のヒーローに関連するクラスやタレントカード群がそのセットにない場合は一般カードのみ気にすることになり、一般カードは多くても50〜70枚程でだけです。注目のクラスやタレントがあればここにさらに数十枚カードが加わることになります。
具体的な例だと最新のセット7をガーディアンプレイヤー的観点で見るときガーディアンクラスのカードはありません。一般カードは43枚ですがそのうち4枚は再版なので実質39枚のみガーディアンデッキに含める可能性があるカードです。パックではなく直接カードの購入だけ考えた場合は、レア度の高いカードは5枚のみ。現在その中で最も高額なのがデッキに1枚のみ含むことのできるレジェンダリー装備品の「摂理の王冠」で現在$109でリストされいます。
摂理の王冠で防衛する時、あなたはカードを1枚手札または兵器庫からデッキの下にもどしてもよい。もしそうしたならば、あなたはカードを1枚引く。
競技レベルデッキ
実際に競技レベルデッキを構築するのにいくらぐらいかかるのが、最近の大会優勝デッキのコストをいくつか調べてみました。全てのカードをシングルで購入した場合の価格です。
デッキ | 大会戦績 | 価格 |
---|---|---|
ピエトロ・ガーレッティ カノ | プロクエスト・第2シーズンガントレット | US$840 |
ジャック・ウィッタカー カツ | プロクエスト・寿司ナイト 8位 | US$720 |
ジョー・コロン チェーン | プロクエスト・モストエクセレントゲーミング 優勝 | US$930 |
アンドリュー・ヒラリー レクシー | プロクエスト・ブリックハウス 準優勝 | US$707 |
クラーク・ジャンセン ブラボーショーストッパー | プロクエスト・グリフィンレスト 優勝 | US$772 |
プロツーアーレベルで好成績を収められるデッキだと大体米国ドルで$700から$900の間ですね。マジックのローティションありのスタンダードフォーマットだと$300〜$500ぐらい。人気のスタン落ちなしモダンフォーマットだと下は$500から$1800。スタン落ちなしでは最もカードプールが少ないパイオニアだと$250から$500ぐらいが現在の相場のようです(MTGGOLDFISHより)。コスト的には安めのモダンフォーマットで、パイオニアと比べると高額といった印象です。
まとめ
基本大会で好成績を残し続けたヒーローのみをローテイションさせるレジェンダリーシステムとクラスやタレントを中心としたゲームシステムはスタン落ちなしの競技TCGを可能にさせています。フリーのサンプルデッキや$10のブリッツフォーマット用事前構築デッキから始めて、上限はプロツアーで使われる競技レベルのデッキで$900ぐらいまでのコストをプレイヤーのレベルに合わせて段階的に選んでいけるのが理想的に思えます。TCGとしてはまだ3年弱程度と若輩のFABなので今後このシステムが開発者の思惑通りに進行していくかは見ものです。