【FAB・理論】テンポと主導権

TCGにおけるテンポという概念がわかりにくいと感じているのは自分だけでしょうか?今回はFABにおける「テンポ」と間違えやすい「イニシアチブ」を表現価値理論を利用しながら独自の見解で考察します。

必修

今回の記事を理解するには表現価値(EV)の概念の理解が必要です。

https://youtu.be/XnPf_vo0BTI

前置き

一般的に使うテンポという単語自体の意味は「音楽・話・作業などの速度」をあらわしているようですが、そこからチェスでも用いられるようになり、さらには互いのクリーチャーを場に展開させて、盤面を作っていくTCGの王道のマジック・ザ・ギャザリングでも使用されるようになったそうです。しかし、TCGにおけるテンポという概念は抽象的でその定義が曖昧で少し分かりにくいと感じるプレイヤーも少なくないようです。

マジックザギャザリング

日本語のマジック専用のWikiの定義を見てみると…

テンポ(Tempo)とは、統一的な定義はなく抽象的な使われ方をする語だが、序盤から理想的に戦線を展開できることをテンポがよいなどと言い、そのためのマナカーブ論議やデッキ論議でよく使われる。あるいは、テンポ・アドバンテージの略称としても使われる。

http://mtgwiki.com/wiki/テンポ

英語のサイト・Fandomにはより詳細な定義が記載されています。

Bringing the definition of tempo back into Magic terminology, one should imagine the hypothetical where each player has a sequence of draws where each player makes the first eight land drops and casts a spell with maximum mana each turn – say, one creature a turn from turns one to seven. If each creature trades with the opposing creature at each juncture, no damage is done and the tempo is even; at the end of the starting player’s eighth turn, they would have no cards in hand. Taking this out of these ideal assumptions, at any point in which a player misses a play, the aggressor cannot attack, or the defender cannot block because their creatures do not line up, that player falls behind in tempo.

[チェスの]テンポ定義をマジック用に解釈するために、次の仮想状況を思い浮かべてみましょう。お互いのプレイヤーが最初の8ターン、毎ターン1枚ずつカードをドロー、土地(リソース)を1枚ずつ設置して、余すことなくそのリソースを使い1体ずつクリーチャーを場に召喚すると仮定します。

互いのクリーチャーが同等の強さとすると、8ターン目の開始時にお互いのプレイヤーは手札がなくなり盤面もお互いのクリーチャーが互いに打ち消し合う状況で、どちらのプレイヤーもダメージを受けずにテンポは同点となります。しかし、もし途中で片方のプレイヤーが1手遅れたら攻撃側は攻撃できなくなり、防御側なら防衛できなくなり結果的にそのプレイヤーはテンポを失ったことになります。

Tempo mtg.fandom.comより

TCGにおけるテンポの重要性

個人的にはTCG を徒競走などのレースに例えてみたら、「テンポ=走るペース」と考えることで意外と分かりやすく理解できたのでこの例えを交えながら、FAB TCGにおけるテンポの性質と重要性について考察していきます。

TCG徒競走(Race)
プレイヤー (Player)ランナー (Runner)
テンポ (Tempo)走る速度・ペース (Running speed/pace)
テンポを得る (Gaining Tempo)加速する (Accelarate)
テンポを失う (Losing Tempo)失速する (Dccelarate)
相手のヒーローのライフを0点にする。
(Taking opponent’s life to 0)
ゴール (Goal)
相手のヒーローのゲーム開始時のライフ
(Starting life of the opponent’s hero)
ゴールまでの距離 (Distance to the goal)

二人のランナー(プレイヤー)が一つのゴール(ゲーム勝利条件)を目指します。同じペースで走る二人は、同じテンポでゲームをプレイしていることになります。

重要なのはテンポの差(テンポアドバンテージ)

走る距離が同じでスタートのタイミングが同時なら、同じペースで走り続ければ、実際のペースに関係なく同時にゴールすることになり引き分けとなります。FABの場合は、スタートタイミングが先手と後手に分かれるので、この場合は先手が1ターン早く相手のライフを0にするので勝利することになります。

勝敗を決めるのは相手と比較して全体平均のペースで、これが早かった方が最終的に先にゴールできます。つまり、重要なのはペース自体ではなく、相手と比べたペースの差・相対速度ということになります。同様に、TCGの勝敗もゲーム全体を通してみた最終的なテンポの差が判定します。

テンポは変動する

ランナーが常に同じペースで走り続けることができない・しないことと同様にFAB TCGでもテンポは変動し続けます。

これは手札の引きによる運の要素からくるテンポの変動もあれば、プレイヤーが意図的にペース上げたり・下げたりする戦略的なペース配分もあります。

In Flesh and Blood Tempo is transient.

フレッシュアンドブラッドにおけるテンポを一時的だ。

FAB Foundations, Ep. 3 – Tempo by Team Covenants

FAB以外のTCGでもゲーム中にテンポは変動していると思うのですが、ゲームが進行すればするほどマナやクリーチャーが盤面に増えていくマジックのようなゲームの場合は、一度失ったテンポを取り戻すのは比較的に難しいため、テンポが毎ターン頻繁に変わるというイメージがあまりないのかもしれません。

テンポを得る≠勝利する。

同じ距離を走るなら、最終的に平均のペースが早いランナーが先にゴールしますが、走る距離が違えばどうでしょうか?FABではゲーム開始時のライフが違うヒーローもいるので、その場合は同じペースだとライフが低いヒーローが負けてしまいます。

また、レースでは一度ペースを上げて相手に差をつけても、相手が後からペースをあげて追い抜かれることもあります。そして、相手よりもペースを上げたとしてもついた差が大き過ぎて追いつけない場合もあります。

つまり、ある一時的にテンポを得たとしても、それ自体が相手より先にゴールできる・ゴールに近いというわけではないということです。

⚠️スタートライフや装備ブロック値の差で微妙に実際に相手に与えなくてはいけないダメージの総合値が違うためテンポを得ないでもその差の分以内なら勝つことができます。

FABのテンポ=表現価値

テンポが、FABの勝利へ向かう速度・ペース・勢いだとしたら実際にどうやって測るのでしょう?答えは、イニング表現価値です。イニングは公式用語ではありませんが、先手と後手が互のアクションフェーズを持つターンを終えたところで1イニングと定義ます。

FABのテンポ=イニング表現価値

テンポの差は、イニング表現価値に差になり、その差の点数分自分は相手より多い・低いダメージをそのイニング相手に提示したことになります。つまり、イニング表現価値で優っているプレイヤーがそのイニングはテンポを得たということになります。

イニング表現価値で優っているプレイヤーが
そのイニングはテンポを得ている。

テンポはライフ値の変動では測りきれない?

テンポがなぜライフ値の変動ではないかというと、相手に提示したダメージが必ずしもライフの減少にはつながらないからです。一つの大きな理由として装備品の存在があります。装備品でブロックした場合はライフには影響がありません。しかし装備品にはダメージがあるので、実際は相手のライフと同等の数値を減らしていることになります。

テンポは提示したダメージではない?

また自分が相手に提示したダメージだけでもテンポとは言えません。理由は提示したダメージが必ずしもライフの減少や装備品の破壊に繋がらないからです。カードでブロックされれば、ライフも装備も消耗しないため勝利条件に近づいてはいません。

例えば、お互いに自分のターンで2枚のカードを使って7点のダメージを提示したとします。これだけ見るとお互い同点とでどちらもテンポを得ていないとみえます。

しかし、お互い残りの2枚のカードをブロックをして、プレイヤーAは合わせて7点のブロック値、プレイヤーBは4点分しかブロックと仮定した場合はどうなるでしょうか?

結果的にプレイヤーAはノーダメージでイニングを終えますが、プレイヤーBは3点のダメージを受けています。よって、プレイヤーAがこのイニングはBよりも3点分のテンポを得て、その分相手のライフを0にする勝利条件に早く近づいたということになります。表現価値ならブロック分が含まれているので、Aは14点、Bは11点でその差は3点分Aが多いとなります。

ターン表現価値では不十分?

テンポが表現価値なら、ターン表現価値でもゲーム全体の表現価値の合計でもどれもテンポになります。実際、走る速度=距離/時間なのでターンでも、イニングでも、ゲーム全体でもそれぞれ決めた範囲のテンポとなります。

ただ、各ターンの表現価値を相手と比べると大半の場合は攻撃側のプレイヤーがテンポを得ている状態になります。理由は、オーバーブロック数はカウントされないのでブロック側は最高でも相手の攻撃全てを打ち消してテンポを与えないことが限界で、相手のターンに攻撃できる特殊なウィザードクラスなのではない限り、ターンごとにどちらがテンポを得たかを比べるのはあまり意味がありません。

そこでお互いが攻撃を終えた、イニングの表現価値をを比べることが実際にどちらが優位な位置に立っているか意識できる最小の単位と思われます。

具体的な例としてどちらのプレイヤーが実際にテンポを得たのか分かりにく、相手のターンも使って攻撃や妨害をするウィザードクラスデッキを使った1戦のイニング表現価値の差をグラフにしてみました。勝手に、テンポグラフと呼びます。

ワールドチャンピオンシップ決勝のハミルトン(Iyslander)対イアーリ(Briar)戦です。互いのライフは着々と減っていくものの、ゲームは終始ハミルトンがコントロールしているというような発言をキャスターがしていました。

テンポグラフを見るとゲーム流れが伝わってきます。ハミルトンはゲーム開始の2イニングで合わせて13点分のテンポを得ます。第3イニングではアグロ・ブライアーデッキのキーカードChannel Mount Heroicが登場します。このイニングではテンポを奪われますが、すぐに次のイニングで取り返します。

CMHを使ったターンが鍵となるはずだったのですが、見事にハミルトンが抑え切って、結果的には8点分のテンポの差が残ったままでした。以降はお互いに大きなテンポを得ることもなく、着々とお互いのライフは減っていきます。そして、最後はアイスランダーのStormstriderを使用した7点アーケン攻撃で相手のターン中にゲーム終了。実際に、終始ハミルトンがゲームをコントロールしていたということがテンポグラフに反映されています。

テンポの重要性

イニングごとに得るテンポの価値は全て同じではなく、重要なのはその頻度と度合いのバランスにあります。上の例でも最初2ターンで13点分のテンポを得ているハミルトンは、3イニング目で5点分のテンポを失っても結果結果的には8点分先の位置にいます。

それぞれのデッキにはテンポを得るべきタイミングと、自分のなりのテンポの取得方法があります。FABの試合とはお互いが自分の思い通りにテンポで得て、相手がテンポを得たい時にそのテンポの取得をなるべく妨害する「テンポ」の取り合いと言えます。つまり、テンポを理解すると言うことは、デッキのプレイスタイルを理解することです。

自分のデッキのテンポの取得方法を理解していれば、どのタイミングで勝負をかけるのか?相手がかけてくるのか?かがわかるようになります。

デッキのテンポを理解すると言うことは、

プレイスタイルを理解すると言うことと同意

テンポの取得方法

実際にどうやってテンポを意図的に取得するのでしょうか?大きく分けて3種類の方法に分類できます。

①ライフを使用
②テンポを得る「カード」やシナジーを使用
③アーセナルを使用

ライフ Or テンポ

Attacks always pressure on two fronts: life total, and tempo. As defenders, we often choose to give away one to maintain the other. And as attackers, we usually have one we’d prefer to impact.

[FABの]攻撃は常に相手に2種類の圧力を与えている。ライフとテンポ。防御側としてはどちらを相手に譲ってどちらを維持するかの選択をしばしば迫られる。[…]

Rathetimes: Alex Truell – 10 mistakes we’ve all madeより

最も典型的な方法がライフをリソースとして扱う方法です。イメージとしては、体力を大きく消耗するが今こそダッシュをかけるという感覚です。

手札が相手に与えることのできるダメージが、自分が受けるダメージよりも価値があると判断した時にブロックに使用せずに手札を自分のターンまで温存します。結果的にダメージを受けるのでライフを削ることにはなりますが、自分の攻撃のターンに温存したカードでそれ以上のダメージを与えられれば、テンポを得たことになります。

具体的な1例を見てみましょう。2022年ワールドチャンピオンシップ準決勝第2試合・アグロデッキ同士のファイvs.ブライアーの1戦です。

Go again

あなたのコントロールするアタックアクションカードは+3点の攻撃を得る。

Channel Earth – あなたのエンドフェーズ開始時に1点のフローカウンターをChannel Mount Heoricに置き、もし各フローカウンターにつき1枚のEarthカードをあなたのピッチゾーンからデッキの下に戻せなければこのカードを破壊する。

ブライヤープレイヤーは、先手でコンボターンの鍵となるChannel Mount Heroic(CMH)を設置できたiは理想的なスタートスタートをしました。

Enlightened Strikeをプレイする追加コストとしてあなたの手札からカードを1枚デッキの一番下に置く。

1つ選ぶ;

  • カードを1枚引く
  • Enlightened Strikeは2{p}を得る。
  • Enlightened Strikeはgo againを得る。

ファイマスター・Daniel Rukowskiは、次のターンで大きなテンポをとりにくるブライアープレイヤーによるブロックはないと判断。つまり、この最初イニングは確実にテンポが得られるので、なるべく多いダメージを与えようと、Enlighted Strikeにはドローカード効果をつけ、最初のターンながらもSnapdragon Scalerを使用してGo Againを追加した、全力攻撃を行いました。

ブライアー専門

Earth Fusion

このターンあなたのコントロールするアタックアクションカードがヒットする度に、もしそのその攻撃力がベース攻撃力よりも高ければカードを1枚引く。

もしForce Of Natureが融合されたならば、次の攻撃は+1[attack]を得る。

Go Again

手札にForce of Natureを持っていたブライアープレイヤーは、どれだけのダメージを受けても自分の方がより大きなダメージを与えられると判断して、ノーカードブロックで手札は全て温存。1イニング目からいきなり15点のダメージを受けてライフを25としました。このイニングでテンポを得たのはファイプレイヤーでした。

しかし、続くブライヤーのターン(2回表)では使用可能な装備品も全て使用した全力攻撃。最終的に、なんと合計44点分のダメージをファイに提示。

ファイプレイヤーはオンヒットドロー効果を防ぐためにブロックも半強要され、装備も複数失い、ライフも40から一気に9点に。

ブライヤープレイヤーは、セカンドイニングではファーストイニングに失ったテンポとは比較にならない程の圧倒的なテンポ得ました。

試合はそのままブライアープレイヤーが一方的にゲームに勝利しました。

もし、ブライアーがファイの最初のターンでライフを優先してブロックに手札をさいていたら結果は違ったかもしれません。

テンポ by アーセナル

もう一つの頻繁に使用される方法は、カードアドバンテージを使ったテンポ取得です。アーセナルを使用することで通常4枚の手札を、5枚手札のターンに変えることができます。イメージとしてはスパートをかける前に、一旦はペースを少し落として、勝負どころで一気にスパートをかける感覚です。

一見すると、通常は平均カード1枚3点の平均表現価値を一つのターンから別のターンに移すだけで得られるテンポは大したことないと思えるかもしれない。しかし、シナジーやコンボが成り立っている場合はその効果は絶大になります。

具体的な例だとコンボファイと呼ばれる、アグロファイのコンボターンを見てみます。

2つ選択します。

  • あなたのコントロールするアタックアクションカードは、このターンで+1攻撃と+1防御を獲得します。
  • このターンでプレイする次の攻撃アクションカードは、Go Againを得ます。
  • ターンの終わりまで、あなたはアーセナルのアタックアクションカードで防御することができます。
  • アタックアクションカードを1枚手札から追放する。もしそうしたならば、2枚のカードを引く。

鍵となるのは、Art of Warです。

アーセナルが空のターンと、Art of Warをアーセナルに設置してあるターンのテンポを比べてみます。装備品効果はTiger Stripe Shukoの2回目のベースアタック2点以下のカードが+1を得ることだけとしておきます。

まずはアーセナルがない状況で上の手札を見てみます。Art of WarもコンボターンクローザーのLava Burstも持っています。

Art of Warの使用コストをBrand with Cinderclawをピッチして支払います。+1アタックとカード引きを選びます。Rising Resentmentを手札から追放して、引けたカードはピッチしたカードと追放したカードと同じだったと仮定します。よって手札は以下のようになります。

+1点ボーナスを加えると、4+3+3=10点分のテンポとなります。この場合はチェーンリンクが3で止まるので、Rupture効果は発動せず、ファイの能力によるフェニックス召喚できないのでTigerstripe Shukoのボーナスも得られません。

次にArt of Warがアーセナルに設置されて、手札にはかわりに特に強いわけでもないRonin Renegadeが入ったと仮定します。

この場合も、同じArt of Warのモードを選び、ドロー時にピッチと追放に使用したものと同じカードが戻ってきたと仮定した場合は、4+4+4+2+6=20点のテンポなります。

この例だとアーセナルにたった1枚カードが入っていることで、テンポが倍になったことがわかります。

テンポ by カード/シナジー

他の2つは方法は、自分のテンポを上げて相手を引き離す手段でした。それに対して、相手のテンポを失わせることで結果的にゲーム全体を通してみた時に自分がテンポを得ることになる方法もあります。この方法はカードやシナジーを使用します。イメージとしては、スパートをかけようとする相手の前に割り込んだり、服をひっぱたりして妨害すること(もちろんルールの範囲内で)で相手は自分のタイミングの時にペースを上げ切ることができなくなる感じです。

Go Again

相手のヒーローのカードと起動アビリティは1{r}追加でかかる。

Chanel Ice – あなたのエンドフェーズ開始時に1点のフローカウンターをChannel Lake Frigidに置き、もし各フローカウンターにつき1枚のIceカードをあなたのピッチゾーンからデッキの下に戻せなければこのカードを破壊する。

相手のテンポを奪う妨害系カードが多いアイスカードですが、通常なら平均テンポを上まるファイの16点攻撃の手札にChannel Lake Frigidが及ぼす影響を見てみましょう。

⚠️ファイのヒーロー能力によるフェニックス召喚(+1)とTigerstripe Shukoの効果(+1)を入れています。

全カードが1コストとなってしまったレッドカードのみの上の手札では、1枚プレイするのに1枚ピッチが必要となります。結果2枚のカードしか使用できず、Lava BurstのRupture効果もファイのヒーローの能力によるフェニックス召喚もなく、Tigerstripe Shukoの+1恩恵も受けられないためにわずか6点の攻撃しかできないターンとなり、10点分ものテンポを失うことになります

相手のテンポを失わせるカードやシナジーは、サイドボードパッケージの選択にも重要になります。

Crush – もしChokeslamが4点以上のダメージをヒーローに与えたら、そのヒーローの次のアクションフェーズ中、そのヒーローがコントロールするアタックアクションカードは{p}を得られない。

例えば、ファイデッキの特大ダメージコンボターンの鍵はArt of WarやLava Burstでチェーンをつなぐことで得られる攻撃補強ですが、Chokeslamのオンヒット効果はそれをなくしてくるのでガーディアンプレイヤーがファイ専用にサイドボードからカードを選ぶ場合、このカードはとても効果的です。

上で紹介した20点テンポのコンボターンにもしChokeslamが発動していたらどうでしょうか?
3+3+3+1+2=12点の平均テンポにも届かないターンになってしまいます。

注意しなくてはいけないのは、これらの方法はあくまで自分の思うようにテンポをコントロールしようとしているだけで、相手も同じようにテンポを得ようとしたり、妨害してくるので必ずしも自分がテンポを取れるとは限りません。時には、タイミング・読みを誤って無理にテンポを取ろうとして失敗すると、逆に相手に予想以上の大きなテンポを与えてしまうこともあります。

イニシアチブ(主導権)

筆者が最初テンポと勘違いしてまったのがチェスで言うところのInitiative(主導権)という概念です。テンポと主導権は状況によっては密接に関係していますが異なるものです。

Initiative in a chess position belongs to the player who can make threats that cannot be ignored, thus putting the opponent in the position of having to spend turns responding to threats rather than creating new threats.[1] A player with the initiative will often seek to maneuver their pieces into more and more advantageous positions as they launch successive attacks.

https://en.wikipedia.org/wiki/Initiative_(chess)

要約すると、将棋で王手など相手が無視できない1手を打ったプレイヤーがゲームの主導権を得たことなります。FABなら致命傷のダメージを与える攻撃をした時、相手は否が応でもブロックをしなくては負けてしまうので例え非効率でもブロックすることになります。

また致命傷の攻撃以外にも、ブロックしなければ圧倒的な不利な状況になる「オンヒット効果」がありこれらの効果を持ったカードも主導権を得るのにつかえます。ただし、これは絶対的ではなく、ブロック側のプレイヤーに最終的な決定権があります。つまり、FABにおける主導権を得る・握ると言うことは相手にブロックを強要すると言うことです。

FABにおける主導権を得る・握ると言うことは相手にブロックを強要すること。

ブラボー専門

Crush – もしCrippling Crushが4点以上のダメージをヒーローに与えたなら、それは2枚のカードをランダムで捨てる。

例えば、ブラボーの専門カードCrippling Crushは主導権を得るの特化したカードです。Crush効果が発動すれば相手は手札半分を失います。かといって、カード1枚の平均は3点ブロックなのでクラッシュを効果を防ぐには2枚のカードと装備、またはカードだけなら3枚必要になります。よってブロックしてもしなくても、相手側は意図せずにカードを失うことになります。

主導権を持つことの重要性は、相手のテンポを落とせることにあります。ゲーム序盤・中盤で主導権を得ることは、続く自分のターンで攻撃に集中できるようになります。例えば、Crippling Crushを受けた直後の相手のターン、相手は1、2枚の手札しか残らず提示できるダメージ数は限られています。よって、最小限のライフを差し出すだけで、続く自分のターンに4枚を使ったテンポを得る可能性が高くなります。また終盤で失う主導権は、ライフがネックになっているため取り戻すのが難しく防戦一方になり、十分な攻撃をできなくなるので、どんどんゲームを不利な状況に追い込まれていきます。

テンポを得たプレイヤーが必ずしも主導権を持っているわけではありません。例えば、お互いにライフに余裕があるうちに無理なブロックはせずに攻撃し合っている状況では、どちらにも主導権はありません。しかし、ダメージ値で優っている方がそのイニングのテンポを持っていることになります。

逆に主導権を持っていても、必ずしもテンポを得ているとは限りません。例えば、均衡したゲーム終盤で両プレイヤーは残りライフが1点。主導権を握っているプレイヤーは4枚のカードをつかって全力攻撃、相手は4枚のカード全てを使い切りながら防戦一方。この状況が連続するということも珍しくありません。この場合は、主導権は明らかに攻撃側のプレイヤーありますが、攻撃プレイヤーのテンポ(全ての表現価値が攻撃)と防衛側のテンポ(全ての表現価値が防御)で打ち消しいあい、イニング表現価値の差は0で、互いにノーダメージ。どちらもテンポを得ていません。

主導権の取り合いの一例を見てみましょう。2022年ワールドチャンピオンシップ第5回戦のファイマスター・Daniel Rutkowskiとブラボーを使用したGordon Koh選手のどちらに転んでもおかしくなかった試合の終盤です。

互いにライフが1点ずつで、装備も尽き、どちらも全ての攻撃が致命傷になるためお互いに強制カードブロックが必要な状況。ブラボー側は高さのある1枚カード(+ピッチカード)攻撃で、ファイは幅のある連続攻撃でお互いに相手にブロックを強要して攻撃にさける手札を減らしあい、主導権を争います。この時点ではゴールを目の前にお互い並んで走っている状況です。

各ターン1回限定 – {r}{r}{r}: 攻撃

もしあなたのピッチゾーンにコスト{r}{r}{r}以上のカードが2枚以上あれば、Anothosは+2{p}を得る。

そこで、ブラボーはAnothosを使った4点攻撃。

カード1枚の平均ブロックは3点(ファイは実際、2点の方が多い)を考えると、コー選手が描いていたシナリオは以下の通りではないでしょうか?

まず、このターン相手は2枚のカードでブロック。
ファイのターン:残りの2枚カードの攻撃。こちらも2枚使ってブロック。
自分の次のターン: ブルーピッチでAnothosを再び発動。もう1枚はアーセナル。相手は再び2枚カードブロック。
ファイのターン:先ほどと同様に2枚攻撃を2枚ブロック。
自分のターン:今回はアーセナルにカードがあるので、3枚手札のターン。よって主導権はコー選手が得て、7点以上の攻撃で相手に3枚以上のブロックを強要して更なる主導権を得る。

しかし、実際はファイプレイヤーが絶妙のタイミングで手札からレッドSink Belowを使用。

あなたはカードを1枚手札からデッキの一番下に戻しても良い。その場合、1枚カードをひく。

1枚でAnothosの攻撃を完全ブロック。次のターンにファイは3枚の手札で四連撃攻撃をすることでコー選手の手札全てをブロックに使用させました。主導権は完全にファイが持つことになり、結果的にその次のファイのターンで試合終了。

まとめ

テンポの定義

FABのテンポはイニング表現価値。イニング表現価値の差で優っているプレイヤーがそのイニングではテンポを得ている。

主導権の定義

主導権を得る・握ると言うことは相手にブロックを強要すること。

教訓

  • 自分のデフェフェンスターンで、プレイヤーは頻繁に「テンポとライフ」のどちらを維持するか・相手に譲るかを選択することになる。 
  • それぞれのデッキのテンポの取得方を理解する。
  • 自分のデッキがテンポを取得する時は、とにかく大きなダメージを狙う。
  • 相手のデッキがテンポを得たい時には、そのテンポを失速させると効果的。

FABの試合はお互いがテンポと主導権を取り合う中、より自分の狙ったテンポでゲームを進行し、ゲーム終盤で主導権を握り最後の1撃でゲームに勝利するゲームと定義できるのではないでしょうか?

感想

実は元々はテンポについて記事を書く予定はなく、ブロック理論を書いている途中でテンポについて説明を書きはじめたら思いもよらない長さになってしまい、独自の記事にすることにしました。「テンポ」という概念・存在の理解は、デッキの戦略を理解することです。お互いのデッキのテンポの取り方を理解することで、自分が責めるべき時と相手のテンポを妨害する時の判断ができるようになるはずです。

参考